千葉地方裁判所 平成10年(ワ)1603号 判決
原告 藤枝宏嗣
原告 大瀬賢一
原告 栗原浩
原告 富塚和也
原告 高橋良
原告 内山好弘
原告 全日本運輸一般労働組合
東京地方本部千葉地域支部
右代表者執行委員長 本田英次
右原告ら訴訟代理人弁護士 白井幸男
同 守川幸男
被告 若松運輸株式会社
右代表者代表取締役 関口稔
被告 株式会社鉄構運輸
右代表者代表取締役 関口稔
右被告ら訴訟代理人弁護士 秋田良一
主文
一 被告若松運輸株式会社は、原告藤枝宏嗣に対し金一八八万二八八六円、原告大瀬賢一に対し金一九九万一九四二円、原告栗原浩に対し金四八万七九二〇円、原告富塚和也に対し金二六万四五九九円及びこれらに対する平成一一年九月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告若松運輸株式会社が原告藤枝宏嗣、原告大瀬賢一、原告栗原浩及び原告富塚和也に対してなした別紙「懲戒処分一覧表」一ないし四記載の各懲戒処分が無効であることを確認する。
三 被告株式会社鉄構運輸は、原告高橋良に対し金二二四万八二三九円、原告内山好弘に対し金六九万五四三三円及びこれらに対する平成一一年九月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告株式会社鉄構運輸が原告高橋良及び原告内山好弘に対してなした別紙「懲戒処分一覧表」五及び六記載の各懲戒処分が無効であることを確認する。
五 被告若松運輸株式会社は、原告全日本運輸一般労働組合東京地方本部千葉地域支部に対し、金三〇〇万円及びこれに対する平成一〇年九月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
六 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
七 訴訟費用は、原告藤枝宏嗣、原告大瀬賢一、原告栗原浩及び原告富塚和也と被告若松運輸株式会社との間で生じた分は、これを五分し、その一を原告藤枝宏嗣、原告大瀬賢一、原告栗原浩及び原告富塚和也の負担とし、その余を被告若松運輸株式会社の負担とし、原告高橋良及び原告内山好弘と被告鉄構運輸株式会社との間で生じた分は、これを五分し、その一を原告高橋良及び原告内山好弘の負担とし、その余を被告鉄構運輸株式会社の負担とし、原告全日本運輸一般労働組合東京地方本部千葉地域支部と被告若松運輸株式会社との間で生じた分は、これを二分し、それぞれを各自の負担とする。
八 この判決は、第一項、第三項及び第五項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告若松運輸株式会社は、原告藤枝宏嗣、原告大瀬賢一、原告栗原浩及び原告富塚和也に対し、別紙請求債権目録(一)記載の各金員及びこれらに対する平成一一年九月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告若松運輸株式会社が原告藤枝宏嗣、原告大瀬賢一、原告栗原浩及び原告富塚和也に対してなした別紙「懲戒処分一覧表」一ないし四記載の各懲戒処分が無効であることを確認する。
三 被告株式会社鉄構運輸は、原告高橋良及び原告内山好弘に対し、別紙請求債権目録(二)記載の各金員及びこれに対する平成一一年九月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告株式会社鉄構運輸が原告高橋良及び原告内山好弘に対してなした別紙「懲戒処分一覧表」五及び六記載の各懲戒処分が無効であることを確認する。
五 被告若松運輸株式会社は、原告全日本運輸一般労働組合東京地方本部千葉地域支部に対し、八〇〇万円及びこれに対する平成一〇年九月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告らの会社で運転手として勤務する原告藤枝宏嗣ら六名が、原告全日本運輸一般労働組合東京地方本部千葉地域支部に加入し、その分会を結成したところ、会社から、団体交渉を拒否される、仕事上の差別を受ける、一時金を支払われない、懲戒処分(出勤停止)の濫発を受けるなどの不当労働行為を受けたとして、不法行為に基づき、右原告組合が被告若松運輸に慰謝料の、右原告藤枝ら六名が被告らに懲戒処分がなければ支払われたはずの賃金相当額の賠償の、各支払を求めるとともに、右原告藤枝ら六名が被告らに右懲戒処分の無効確認を求めた事案である。
一 前提となる事実(証拠を掲げたもの以外は当事者間に争いがない。)
1 当事者
原告全日本運輸一般労働組合東京地方本部千葉地域支部(以下「原告組合」という。)は、千葉県内の一般の労働者の個人加入により組織された労働組合である。
原告藤枝宏嗣(以下「原告藤枝」という。)、原告大瀬賢一(以下「原告大瀬」という。)、原告栗原浩(以下「原告栗原」という。)及び原告富塚和也(以下「原告富塚」という。)は、いずれも被告若松運輸株式会社(以下「被告若松運輸」という。)の運転手であり、原告高橋良(以下「原告高橋」という。)及び原告内山好弘(以下「原告内山」という。)は、いずれも被告株式会社鉄構運輸(以下「被告鉄構運輸」という。)の運転手である。
右原告らは、いずれも、後記2の原告組合若鉄運輸分会(以下「分会」という。)に所属する者である(以下、原告組合を除く原告らを「原告ら分会員」という。)。
被告若松運輸は、一般区域貨物自動車運送等を業とする会社であり、被告鉄構運輸は、一般貨物自動車運送等を業とする会社であるが、両会社は代表者が同一であり、また、被告鉄構運輸の事務は被告若松運輸の事務室で行われている。
2 分会の結成
平成九年九月一三日、被告ら及び若松物流株式会社(大分県中津市所在の被告らの関連会社であり、代表取締役が被告らと同じく関口稔である。以下「若松物流」という。)の従業員の有志が原告組合に加入するとともに、同月一四日、分会の結成大会が開催された。当時、被告ら及び若松物流の従業員は合計八〇名程度であったところ、右分会結成大会には右従業員のうち二九名が参加し、その後一六名が加入したため、結成直後の分会員は四五名となった。なお、分会員は、結成大会後一週間で一六名に減少し、平成一二年五月三〇日の時点では六名となっている(甲五、二一、二二、乙二七、弁論の全趣旨)。
3 原告ら分会員に対する懲戒処分
平成九年九月一四日の分会の結成大会から平成一〇年一一月一三日までの間、被告若松運輸は、原告藤枝、原告大瀬、原告栗原、原告富塚に対し、被告鉄構運輸は、原告高橋、原告内山に対し、それぞれ、役員宅周辺におけるビラ配布、従業員メールボックスへのビラ入れ、抗議集会会場におけるビラ配布、勤務時間中の退社、抗議デモにおける発言、被告らの取引先への要請書の送付、非組合員に対する文書の配布等が、就業規則上の遵守事項違反又は懲戒事由に該当するとして、別紙「懲戒処分一覧表」のとおり、出勤停止の懲戒処分を行った(甲一、乙一三、一四、二〇の1ないし11、二二の1ないし10、二三の1ないし8、二四の1、2、二五の1ないし11、二六の1、2、弁論の全趣旨)。
右懲戒処分(以下「本件懲戒処分」という。)の回数及び出勤停止日数の合計は、原告藤枝については一一回、六五日、原告大瀬については一〇回、五〇日、原告栗原については八回、一六日、原告富塚については二回、一一日、原告高橋については一一回、五六日、原告内山については二回、一一日であった。
二 争点
1 原告組合関係
(一) 被告若松運輸が分会との団体交渉の拒否や、分会員に対する分会脱退の強要・仕事上の差別・賃金上の差別などの不当労働行為を行ったか
(二) 本件懲戒処分が正当な理由に基づかないものとして不当労働行為に当たるか
(三) 右(一)、(二)の不当労働行為があったとした場合、それが原告組合に対する不法行為となるか
(四) 右(三)の不法行為が成立する場合の慰謝料の額
2 原告ら分会員関係
(一) 本件懲戒処分が正当な理由に基づかないものとして不当労働行為に当たるか、また、本件懲戒処分が有効か否か
(二) 被告らが原告ら分会員に対し、不当労働行為(不利益取扱い)たる仕事上の差別をしたか
(三) 右(一)、(二)の不当労働行為があったとした場合、それが原告ら分会員に対する不法行為となるか
(四) 右(三)の不法行為が成立する場合、原告らが分会結成後の賃金減少分に相当する損害を被ったといえるか
三 争点に関する当事者の主張
(原告らの主張)
1 争点1(原告組合関係)について
(一) 争点1(一)について
(1) 団体交渉の拒否
平成九年九月の分会結成以来、被告らとの団体交渉は、平成一〇年一月二〇日に一回開催されたのみである。右団体交渉も、交渉事項は平成九年冬期一時金に限定されたものであったし、右団体交渉には被告らの代表者の出席もなく、被告らは無責任な対応に終始した。
(2) 分会脱退の強要
被告らは、分会結成と同時に分会つぶしを開始し、分会員らに対し、直接又はその家族に働きかけるなどして、分会を脱退するよう強要したり、分会員をいじめたりした。その結果、分会結成時に四五名に達した分会員は、一週間で一六名に減少した。
(3) 仕事上の差別
原告ら分会員は、分会結成以前は、原告大瀬についてはシングルトレーラーが、その余の原告ら分会員については重量トレーラーがそれぞれ担当車両であったが、分会結成直後から右担当車両を外されるようになり、長距離運送を少なくされたり、特車手当(トレーラーを配車された者に支給される特別の手当)をカットされたり、草むしりや修理工場の手伝いをさせられるなどの仕事上の差別を受けるようになった。
(4) 賃金上の差別(一時金の不支給)
被告らは、平成九年度冬期一時金及び平成一〇年度夏期一時金の支給に際し、賃金規程により勤務成績を考慮して支給するとしつつ、分会員に対してのみ、賞与の内容については被告らの方針に従い異議を申し立てないという内容の誓約書の提出を求め、分会員が右誓約書の提出を拒否したため、右各一時金が支給されなかった。
分会員にのみ誓約書の提出を求めるという被告らのこのような態度は、一時金の支給につき、分会員が同意できない条件をあえて付し、それを理由に一時金の支払いを拒否し、あるいは遅滞させ、一時金の支給を前提に生活設計をしている分会員に経済的打撃を与えることを意図したものというべきである。
(二) 争点1(二)について
平成九年九月の分会の結成から平成一一年五月までの一年九か月の間に、被告らは、原告ら分会員に対し、別紙「懲戒処分一覧表」のとおり本件懲戒処分をしたが、本件懲戒処分は、同一覧表の「処分の不当性」欄記載のとおり、いずれも正当な理由に基づくものではなく、不当労働行為に該当する。
(三) 争点1(三)について
右(一)、(二)のような被告らの行為により、多くの組合員が分会からの脱退を余儀なくされたが、これらの行為は憲法で保障された労働組合運動を否定するものであり、原告組合の組織の弱体化を意図してなされたものであるから違法である。
したがって、被告若松運輸は、不法行為に基づき、原告組合の被った損害を賠償する義務がある。
(四) 争点1(四)について
被告らの不当労働行為は、原告組合の弱体化、壊滅を目的とするものであるから、原告組合は、被告らによる労働組合の団結権の侵害に対し、独自の慰謝料請求権を有するというべきであり、原告組合に対して支払われるべき慰謝料額は八〇〇万円を下らない。
2 争点2(原告ら分会員関係)について
(一) 争点2(一)について
前記1(二)のとおり、本件懲戒処分は、正当な理由に基づくものではなく、不当労働行為に該当するから無効である。
(二) 争点2(二)について
原告ら分会員は、前記1(三)のとおり、仕事上の差別を受けており、その各原告ごとの内容は、別紙「仕事上の差別一覧表」記載のとおりであるところ、これらは不当労働行為たる不利益処遇に当たる。
(三) 争点2(三)について
右(一)、(二)の被告らの行為は、いずれも原告らが分会員であることや、原告ら組合員の正当な組合活動を理由としてなされた不当労働行為であり、不法行為が成立するから、被告らはこれらにより原告ら分会員が被った損害を賠償する義務がある。
(四) 争点2(四)について
原告ら分会員は、分会結成以来、前記の仕事上の差別及び本件懲戒処分による賃金カットにより、賃金の大幅な減収を余儀なくされてきた。
原告ら分会員が被告らの不当労働行為によって被った損害額は、分会結成前の三か月間の平均賃金額と、分会結成後の平均賃金額の差額として算定するのが合理的であるところ、右の算定方法によって算出した各原告らの損害額は、別紙「損害額一覧表」のとおりである。
(被告らの主張)
1 争点1(原告組合関係)について
(一) 争点1(一)について
(1) 団体交渉の拒否について
原告らと被告らとの団体交渉が一度しか開催されなかったのは、団体交渉を開催するための条件について合意できなかったり、原告らが団体交渉の会場費を約束に反して負担しなかったなど、やむを得ない相当な理由があったからであり、不当労働行為となるような団体交渉拒否の事実はない。
なお、平成一〇年一月二〇日に開催された団体交渉には、被告らの代表者は出席しなかったが、被告ら側の出席者には団体交渉での決定権限が付与されており、このことは団体交渉の席上、原告らに説明してあったから、代表者の出席は不要であった。
(2) 分会脱退の強要について
分会を脱退した者は、全員、自己の意思で任意に脱退したのであり、被告らの強要によるものではない。原告らは、組合に加入していない者も加入したとし、そのような者も強要により脱退したなどと主張して事実を歪めており、また、分会結成後の脱退者が多かったため、その原因を被告らに転嫁しようとしているのであり、言いがかりでしかない。
(3) 仕事上の差別について
被告らにおいて担当車両というものは存在せず、これを前提とする主張は失当であり、また、この不況下で原告ら以外の運転手も長距離の仕事が減少しているのであって、配車差別というものは存在しないし、草むしりなどの社内清掃や車両修理の手伝いなどは、分会結成以前から、組合員、非組合員の区別なく担当させてきたものである。
(4) 賃金上の差別(一時金の不支給)について
一時金については、分会側が団体交渉事項として団体交渉で決着しようとの方針を有しており、団体交渉が妥結できなかったことから支給できなかったものである。
また、分会員に対して誓約書の提出を求めたのは、右のような状況下において、個々の分会員が一時金の支給を要求した場合に、個々の分会員に対し会社側提案に同意するよう要求したものであって、団体交渉が妥結できない状況下においては当然の処置である。
(二) 争点1(二)について
被告らの行った本件懲戒処分は、すべて就業規則に基づいて行われた正当な処分である。原告ら分会員は、被告らの役員の自宅周辺に役員の名誉を毀損する内容のビラを配布するなど、就業規則に違反する違法な活動をしたため、被告らはその都度懲戒処分をしているにすぎない。
(三) 争点1(三)、(四)について
右(一)のとおり、被告らが原告組合の団結権を侵害した事実はなく、原告組合が弱体化し、消滅に向かいつつあるのは、分会そのものの責任であるから不法行為は成立しないし、原告組合の損害もない。
2 争点2(原告ら分会員関係)について
(一) 争点2(一)について
前記1(二)のとおりであり、本件懲戒処分は正当な理由に基づくもので、正当である。
(二) 争点2(二)について
前記(一)(3) のとおりであり、また、別紙「仕事上の差別一覧表」についての反論は、別紙「『仕事上の差別一覧表』に対する反論表」(ただし、訴えを取り下げた吉永秀昭分を除く。)のとおりである。
(三) 争点2(三)、(四)について
被告らは不当な懲戒処分をしたことがなく、また、仕事上の差別もしていないから、原告ら分会員に対する不法行為は成立しないし、仮に原告ら分会員の賃金が減少したとしても、被告らがその減少分を賠償すべき理由はない。
また、原告らは、分会結成前の賃金に基づいて平均賃金を算出し、これを基準として損害額を算出しているが、仮に損害額を算定するとしても、各懲戒処分ごとに、その処分前の賃金に基づいて平均賃金を算出すべきである。
第三当裁判所の判断
一 争点に関連する事実経過
前記第二の一の事実に加えて、証拠(甲一、二の1、2、三の1、2、四、五、六の1ないし3、七の1ないし3、八ないし一一、一二の1ないし6、一三、一四の1、2、一五の1ないし4、一六、一七の1ないし7、一八ないし三二、乙一ないし四、一一、一三、一四、二〇の1ないし11、二二の1ないし10、二三の1ないし8、二四の1、2、二五の1ないし11、二六の1、2、二七、二九、三〇の1ないし4、三一の1、2、三八、三九、原告高橋、被告ら代表者関口稔)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
1 分会は、被告ら及び若松物流から支給される賃金が重労働の割には少ないなどと感じていたこれらの会社の従業員有志により平成九年九月一三日に結成され、同月一四日にその結成大会が開催された。当時、被告ら及び若松物流の従業員は合計八〇名程度であったところ、右分会結成大会には右従業員のうち二九名が参加し、その後一六名が加入したため、結成直後の分会員は四五名となった。原告組合の分会長には原告藤枝が、書記長には原告高橋がそれぞれ就任した。
2 被告ら及び若松物流の代表取締役である関口稔、その長男であり被告若松運輸の専務取締役である関口和夫、関口稔の三男であり被告若松運輸の運転手である関口修、関口稔の妻であり被告ら及び若松物流の取締役である関口公子は、かねてから全日本運輸一般労働組合につき、同組合が結成された会社は倒産したり、相当長期間労働争議が続くなどして正常な労使関係を築けないとの考えを抱いており、原告組合に対しても嫌悪の情を抱いていた。
3 関口公子や関口修は、分会の結成大会の最中に、多数の分会員の携帯電話に電話をかけ、原告藤枝や原告大瀬に対し、「いい歳して組合なんか入って恥ずかしくねーのかよ。組合なんかやめろ、馬鹿野郎。」「組合なんかやって冗談じゃねーぞ。明日からトレーラーを降りてもらうからな。」などと言い、また、その後も右両名や、関口和夫らが分会員の自宅に電話をしたり直接面談するなどして、「組合を辞めろ。」などと話して、分会員に、分会からの脱退を強く働きかけた。その結果、分会結成当時四五名に達した分会員は、一週間で一六名に減少した。その後も、関口公子や被告若松運輸の渡辺営業所長らは、分会員に対し、「よく会社に来れるな。」「いやなら辞めればいいだろう。」などと言ったり、社員名簿に印を付けたものを示して、「だいたいこの印をつけてある人間だろ。」などと言って、分会員を特定しようとするなどの行為をした。
4 被告らの会社において、運転手は、事実上、特定のトレーラーや大型トラックを自己の担当車両として運転しており、それが一定期間継続することが常態であったが、分会員は、分会結成後、それまで乗車していた車両をシングルトレーラーや重量トレーラーから一〇トントラックに変更されたり、毎日のように違う車両に乗車するように指示されたりした。また、分会結成後、分会員には、長距離運送の仕事を割り当てられることが少なくなったほか、車両の乗務から外されて被告らの修理工場で車両整備作業や草むしり等の雑用をさせられることが多くなったが、この間も、分会員以外の運転手については、その乗車する車両はほぼ固定されており、また、右のような雑用を強要されることもなかった。なお、分会の執行委員となった原告大瀬は、平成一〇年一〇月ころから、農協関係の肥料や農薬を毎回手積み手卸し作業で配達したりする作業に専属的に従事させられるようになった。
5 被告らの会社では、勤続年数が相当長い運転手でも、本給(基本給)は月額一〇万円以下であり、特車手当(月の定額で、重量トレーラーは七万円、シングルトレーラーは四万円)や、片道のキロ数に三〇円ないし四〇円を乗じた長距離手当、また、時間当たり九〇〇円の時間外手当の支給がないと、賃金は極めて低廉なものとなるところ、前記3のような被告らの行為の結果、分会員は、被告らに勤務する運転手にとって基本給を補完する意味を持っていた特車(トレーラー車)手当や長距離(出張)手当等の各種手当てを受けることが、分会結成前に比べてかなり少なくなり、相当程度賃金が減少することとなった。なお、前記のような修理工場の仕事は残業(時間外勤務)を伴うようなものではない。
6 分会は、平成九年九月一六日、被告らに対し、組合の結成通知とともに団体交渉の申入れをした。これに対し被告らは、同年一〇月六日、上部団体である原告組合の役員を含めた団体交渉には応じられないとしてこれを拒否したため、原告組合は、千葉県地方労働委員会(以下「地労委」という。)に対し、団体交渉のあっせんを申請し、その結果、同年一一月一九日、被告らは上部団体を含めた組合と団体交渉を行うこと、団体交渉についてはあらかじめ労使双方で交渉ルールを定め、誠実にこれを行うことなどを内容とするあっせん案が成立した。そこで、同年一二月一一日、右交渉ルールを決めるための団体交渉が開催されたが、被告らは、前記地労委のあっせん案の「労使双方」の労働者側には、分会の上部団体も含む趣旨であったにもかかわらず、分会の上部団体である原告組合の役員の出席を拒否したため、分会は同分会のいわゆる三役のみ出席して交渉を持つこととした。その際、被告らは、<1>上部団体の出席者は、上部組織名とその役職を明記する、<2>人数は、労使同人数とする、<3>団交申込みについては、必ず書類を手渡しで申し込み、勤務時間内は認めない、<4>時間は二時間以内とする、<5>会社の事情もあるため、団交日と場所は複数提示する、<6>議題を明確にして、その他の項目は入れない、<7>団交場所について費用が発生した場合は双方の負担とする、との各条件を示し、これに同意しない限りは団体交渉に応じられないとの姿勢を示した。これに対し、分会側は、右<2>については、労使同人数とすることはできないし、また、右<3>についても、分会員は早朝から夜遅くまで勤務しており、出発時及び帰庫時には会社役員がいないため、団体交渉の申入れ文書を手渡しに限定することは、実質的に団体交渉の拒否に当たるし、勤務時間内に団体交渉を認めないということは、分会員の勤務形態に照らせば日曜日にしか団体交渉ができないこととなり、事実上の団体交渉の拒否に当たるとして、被告らの提示した条件の受諾を拒否し、結局、この日の団体交渉のルール作りも決裂した。
7 分会は、平成九年一二月二七日、再度、被告らに対し団体交渉を申し入れたところ、被告らは、平成一〇年一月一〇日、分会に対し、平成九年度の冬期一時金の問題に関してのみ団体交渉に応じる旨回答した。そこで、分会と被告らは、同月二〇日、右問題に限って団体交渉を行うこととなったが、両者間において、団体交渉の開催場所について意見の対立が生じ、右同日は被告らの指定した場所である千葉市中央区のホテルサンガーデンで団体交渉を行うこととなった。被告らは、右団体交渉において、分会に対し、分会が右ホテルの会場使用料の半額(約一万四〇〇〇円)を負担しなければ団体交渉に応じないとの態度を示し、また、右一時金の問題については、分会員に対して支払われるべき具体的金額の提示も、一時金の原資の総額についての回答もせず、その後、二時間が経過したとして被告らの担当者が退席したため、実質的な話合いがなされないまま団体交渉は決裂した。なお、同日の団体交渉には、被告若松運輸の代表者は出席していない。
8 分会は、平成一〇年二月二〇日及び同年五月一二日にも、被告らに対し団体交渉を申し入れたが、被告らは、同年一月二〇日に団体交渉が開催された際のホテルの使用料を支払わない限り団体交渉に応じられないと回答したため、団体交渉は行われなかった。その後、平成一〇年六月六日、前記ホテル使用料の負担及び一時金問題に限定して団体交渉が開催されたが、被告らは、ホテル使用料の負担の解決が先決問題であると主張し、分会が右ホテル使用料の負担を拒否したため、その他の議題を交渉することなく団体交渉は決裂し、さらに、同月九日、分会は被告らに対し団体交渉を申し入れたが、被告らが、議題は右ホテル使用料の問題を先決問題とする旨回答したことから、団体交渉は開催されず、以後、分会と被告らの間で団体交渉は開催されていない。
9 被告らは、平成九年一一月一〇日付けで「平成九年度冬期賞与支給について」と題する社報を出し、その中で、同年の冬期一時金の支給日を一二月二五日とし、支給額を前年並みとする旨の内容を従業員に示すとともに、分会員に対してのみ、「<1>賞与の内容については会社の方針に従います、<2>賞与の支給内容に関しては一切の異議申立てをしないことを誓約します」、という内容の誓約書と題する書面に署名押印をして提出することを求め、右誓約書を提出しない限り一時金を支給しない旨通告した。原告ら分会員は右誓約書の提出を拒んだため、平成九年度の冬期一時金は、分会員以外の者に対しては右支給日に支給されたものの、分会員に対しては支給されなかった。また、平成一〇年度の夏期一時金の支給に際しても、被告らは、分会員に対してのみ、右と同内容の誓約書の提出を求め、原告ら分会員は右誓約書の提出を拒んだため、分会員以外の者に対しては同年八月五日に夏期一時金が支給されたものの、分会員に対しては支給されなかった。原告藤枝、原告大瀬、原告栗原、原告高橋、原告内山らは、平成九年度冬期一時金及び平成一〇年度夏期一時金の支給について、被告らを債務者として、千葉地方裁判所に対し、右一時金の仮払い仮処分命令の申立てをし、同裁判所は、平成一〇年一〇月二一日、被告らに対し、右一時金の仮払いを命ずる決定をした。
10 原告組合及び分会は、団体交渉の申入れと並行して、被告らの会社やその役員宅周辺において、「若松運輸(株)は運輸一般つぶしをやめなさい!」「働く者を苦しめている若松運輸!」「関口稔は賞与を支給せよ!」「若松運輸(株)=代表取締役関口稔氏は分会長の処分を撤回しろ!」「あっせん案成立」「若松運輸の組合つぶしに対する抗議デモにご一緒にご参加を!」などと記載されたビラや、被告らが不当に団交を拒否するなど不誠実団交を行っているなどと記載された経過報告書を配布したり、右と同趣旨の街頭宣伝活動を行った。また、原告組合及び分会は、被告らが、分会ないしその構成員に対する組合脱退の強要、団体交渉の拒否、組合活動を理由とする出勤停止処分、配車差別、一時金の不支給などの組合つぶしを行っているため、対抗措置としてストライキ及びデモを計画していることと、これにより被告ら及び若松物流の取引先に迷惑をかけるかもしれないことへの理解と協力を求めるとともに、取引先からも被告若松運輸に対し組合つぶしをやめて正常な労使関係を築き上げるよう指導することを要請する旨の「要請書」と題する書面を作成し、平成一〇年二月下旬から三月上旬にかけて、被告らの取引先数社に送付した。
11 これに対し、被告若松運輸は、原告藤枝、原告大瀬、原告栗原、原告富塚に対し、被告鉄構運輸は、原告高橋、原告内山に対し、それぞれ、役員宅周辺におけるビラ配布、従業員メールボックスへのビラ入れ、抗議集会会場におけるビラ配布、勤務時間中の退社、抗議デモにおける発言、被告らの取引先への要請書の送付、非組合員に対する文書の配布等が、就業規則上の遵守事項違反又は懲戒事由に該当するとして、別紙「懲戒処分一覧表」のとおり、出勤停止の懲戒処分を行った。右懲戒処分の回数及び出勤停止日数の合計は、原告藤枝については一一回、六五日、原告大瀬については一〇回、五〇日、原告栗原については八回、一六日、原告富塚については二回、一一日、原告高橋については一一回、五六日、原告内山については二回、一一日であった。原告ら分会員は、右出勤停止により、相当程度賃金が減少したが、ことに原告藤枝は、右減額があまりに大きかったため、千葉地方裁判所に対し、懲戒処分の付着しない労働契約上の権利を有することを仮に定めること及び右懲戒処分がなければ支払われたはずの賃金と現実に支払われた賃金との差額分の仮払いを求める仮処分を申し立てたところ、同裁判所は、平成一一年一月四日、右労働契約上の権利を仮に定めることを求めた部分は却下し、右差額分の賃金については、被告若松運輸に対し仮払いを命ずる決定をした。
12 原告組合は、被告らが、分会との団体交渉を正当な理由なく拒否し、分会員に対し分会からの脱退を強要し、分会員に対し配車差別などの不利益取扱いをし、分会員に対し理由なく懲戒処分(出勤停止)をしたとして、地労委に対し、右不当労働行為からの救済を求める申立てをしたところ、地労委は、平成一一年二月二六日、右各不当労働行為の存在を認めた上で、右各不当労働行為の禁止、懲戒処分の撤回及び当該出勤停止日数に対応する賃金の支払等を命じた。
二 争点についての判断
1 争点1(一)(団体交渉の拒否や、分会脱退の強要、仕事上・賃金上の差別などの不当労働行為の有無)及び2(二)(不当労働行為たる仕事上の差別の有無)について
(一) 団体交渉の拒否について
被告らは、前記一4のとおり、地労委のあっせん案において、上部団体である原告組合を含めて団体交渉を行うべきこと及びそのルール作りをすることをあっせんされ、これを受諾したにもかかわらず、団体交渉のルールを決定するための協議の際、ことさらに原告組合を排除しようとしたり、分会に対しても、勤務時間内の団体交渉は認めないなど、事実上団体交渉の拒否につながるような条件を提示するなどして、右ルール作りを決裂させ、また、平成一〇年一月二〇日に行われた団体交渉の際も交渉事項を一方的に限定した上、その事項についても責任ある回答は示さず、さらに、その後の団体交渉の申入れに対しても、右協議の際の会場費用を原告らが負担しないことを理由にこれを拒絶するなど、団体交渉を誠実に行おうとする姿勢がみられず、実質的に、分会との団体交渉を拒否し続けていることが認められる。
これについて、被告らは、右団体交渉の拒否は、原告らと被告らとの間で、団体交渉を開催するための条件について合意できなかったり、原告らが団体交渉の会場費用を約束に反して負担しなかったためであるなどとして、右団体交渉の拒否には正当な理由がある旨主張する。
しかしながら、被告らと分会との団体交渉のルール作りが決裂したのは、もっぱら被告らの側にその原因があることは前記のとおりである。
また、原告らが団体交渉の会場費用を負担しなかった点については、そもそも、被告らの提案にかかる右費用を双方で負担するという条件については、被告らと分会の間に合意は成立していないのであるし、平成一〇年一月二〇日の団体交渉の場所であるホテルサンガーデンは、被告らが指定した場所なのであるから、そこで団体交渉を開くことに分会が応じたからといって、直ちに分会の側にその費用の半分を負担すべき義務が生じるということはできない。なお、仮に、分会において、右費用の支払義務があったとしても、右のような経緯に照らし、また、その会場費用が比較的少額なものであることからすれば、その未払いを理由に団体交渉を拒絶し続けることは使用者として決して誠実な態度とはいえず、これをもって団体交渉拒否の正当な理由とすることはできないというべきである。
したがって、被告らが、分会側との団体交渉を拒否した行為は、労働組合法七条二号の不当労働行為に該当する。
(二) 前記一3のとおり、被告らの役員らは、分会の結成直後から、分会員に対し、直接又はその家族を介して分会を脱退するよう働きかけているところ、証拠(乙一ないし三)によれば、被告代表者や関口公子らは、原告組合について、「あらゆる法的手段により対抗していく決意をしております。」「対立が深くなり泥沼の闘いになると思います。会社もこの覚悟はできております。」「会社は今後、徹底した対決姿勢で臨む。」などと、かねてから分会を嫌悪していたことが認められ、このような被告代表者らの考え方からすれば、被告らの役員らが分会員に対し組合脱退を働きかける行為は、分会を嫌悪しこれを攻撃する意図を決定的な動機として分会の活動に不当に介入したものであることは明らかというべきであるから、右行為は、労働組合法七条三号の不当労働行為に該当する。
なお、被告らは、分会を脱退した者は、全員、自己の意思で任意に脱退したのであり、被告らの強要によるものではない旨主張するところ、証拠(乙五ないし八、二八)によれば、たしかに何名かは、分会の結成などに参加した後、これを任意に脱退していることが窺われるものの、前記一3のように、組合結成後わずか一週間で二九名もの大量の組合脱退者が出たのは、前述のような被告らの役員らによる強力かつ執拗な組合脱退の強要によることは明らかであるから、いずれにせよ被告らの主張は理由がない。
また、被告らは、原告らが組合に加入していない者も加入したとし、そのような者も強要により脱退したなどと事実を歪めているとも主張するが、そのような事実を窺わせるような証拠はない。
(三) 仕事上の差別について
前記一4のとおり、被告らは、分会員については、担当車両を持たせず頻繁に乗車車両を変更させたり、長距離運送の割当てを少なくしたり、運送業務以外の業務に従事する時間を多くするなど、賃金の減少に直結する仕事上の不利益取扱いをしているところ、これらは分会を嫌悪し、これを攻撃する意図でなされたことは明らかであるから、労働組合法七条一号の不当労働行為に該当する。
なお、被告らは、被告らの会社において担当車両というものは存在せず、また、長距離の配車が減少したのは不況のためであり、配車差別というものは存在しないし、草むしりや車両修理の手伝いなどは、分会結成以前から、組合員、非組合員の区別なく担当してきたものであるなどと主張するが、担当車両というものが制度としては存在しないとしても、被告らのような運送業において、運転手の乗務すべき車両が頻繁に変更されることは通常考え難く、事実上の担当車両が決まっていることは容易に推認できるところであるし、また、分会結成以来、分会員らのみが右のような運送業務以外の仕事を多く割り当てられるようになったことは、証拠(甲二二ないし二六、原告高橋本人)から明らかであり、右被告らの主張は採用し難い。また、右に述べたところからすれば、被告らの別紙「『仕事上の差別一覧表』に対する反論表」(ただし、吉永秀昭分を除く。)記載の反論が理由のないことも明らかである。
(四) 賃金上の差別(一時金の不支給)について
被告らが、分会員に対してのみ、平成九年度冬期一時金及び平成一〇年度夏期一時金の支給に関し、前記一9のような誓約書の提出を求め、分会員がこれに応じなかったため、分会員に対しては、右各一時金が支払われなかったことは前記一9のとおりである。
これについて、被告らは、一時金については、分会側が団体交渉事項として団体交渉で決着しようとの方針を有していたところ、その団体交渉が妥結できなかったため、個々の分会員について一時金の支給についての会社側提案に同意してもらうべく、右誓約書の提出を求めたものである旨主張し、一時金を支払わなかったことについて正当な理由があるかのように主張する。
しかし、右団体交渉の拒否に正当な理由があると認め難いことは前記(一)のとおりであるし、前述のように被告らの会社と分会との間に種々の対立があった状況下において、一時金の支給額を会社に白紙委任するような書面の提出を求め、それに応じなければ一時金を支給できないとすることは、実質的に一時金の支給拒否であることは明らかであり、右被告らの主張は採用し難い。
2 争点1(二)及び2(一)(本件懲戒処分が不当労働行為に当たるか、また、本件懲戒処分が有効か否か)について
(一) 本件懲戒処分の内容は、別紙「懲戒処分一覧表」記載のとおりであり、原告ら分会員がした、組合のビラや報告書の配布及び街頭宣伝活動並びにそれらの記載や発言内容の誤りその他デマを流した行為が就業規則五三条一一項の懲戒事由(不正、不義の行為をして著しく会社の信用を傷つけたとき)や二四条一五項(職場での無許可のビラ配布禁止)の遵守事項違反に、就業拒否が同規則二四条二項(欠勤の禁止)の遵守事項違反に、勤務時間内の組合活動が同規則二二条(職務専念義務)の従業員の責務規定違反に、それぞれ該当するとしてなされたものである。
(二) 本件懲戒処分において就業規則五三条一一項に該当するとされた事由のうち、原告ら分会員が行った一般市民や被告らの従業員らに対するビラや報告書等の配布行為、街宣活動、抗議集会等(別紙「懲戒処分一覧表」記載一の1、3ないし6、8、9、11、二の1ないし3、5ないし9、三の1、3、4、6ないし8、五の2ないし5、7ないし9の各懲戒事由)については、前記一1認定の事実及び証拠(甲一、五、七の1、一〇、一一、一五の1ないし4、一六、一七の1ないし7、二〇ないし二六、原告高橋本人)によれば、いずれも被告らの前記1認定のような不当労働行為や本件懲戒処分に抗議する趣旨でなされたものであり、配布されたビラや報告書等に記載された内容は、いずれも分会結成以来の被告らと分会との交渉の経緯や、被告らの役員の分会への対応等を取り上げ、それに対する分会の姿勢や意見を表明したり、地労委でのあっせん案の成立を報告したりする内容のものであるところ、右ビラ等に記載された内容は、概ね事実に沿うものであり、ことさらに事実を歪曲して被告らを誹謗中傷するようなものとは認め難いし、また、街頭宣伝活動における発言や抗議デモにおけるシュプレヒコールなども、「若松運輸は組合潰しをやめろ。」「会社は組合員を差別している。」などという大筋において前述の認定事実に沿う事実に基づく非難の声明であって、その表現内容も特に不穏当なものともいえない。
そうすると、これらは、いずれも組合活動として許容される範囲の表現活動というべきであり、それらが就業規則五三条一一項の会社の信用を著しく傷つける不正、不義の行為といえないことは明らかである。
なお、証拠(甲一五の3、乙二七、被告ら代表者)によれば、平成九年一〇月一九日のビラ配布に際しては、被告ら代表者の自宅前で街頭宣伝車を使い、マイクで約四〇分間にわたり、「若松運輸の社長の自宅はここです。」などと抗議行動を行ったほか、同年一二月三〇日に配布されたビラには、抗議先として、被告らの会社の専務である関口和夫の住所、氏名が記載されており、これらは、被告らの代表者や役員個人の私生活の平穏を一定の限度で害するものといわざるを得ないが、それが同人らに対する不法行為を構成するか否かはともかく、それが直ちに被告らの会社の信用までをも著しく傷つける行為とはいえないから、この点も、前記の判断を左右するものではない。
また、就業規則五三条一一項に該当するとされた事由のうち、平成一〇年三月二六日に被告らの取引先に要請書を送付した行為(別紙「懲戒処分一覧表」記載一の10、二の4、三の5、五の6の各懲戒事由)については、その内容は、主として組合活動に対する理解と協力を呼びかけるものであり、事実を歪曲したり、被告らを誹謗中傷する内容を含むものではないのであるから、手段としては強硬で穏当を欠く側面もあるものの、前記認定のような被告らのそれまでの分会に対する対応をも考慮すれば、原告ら分会員がある程度強硬な措置をとったこともやむを得ないと考えられるから、この点についても前記と同様である。
さらに、就業規則五三条一一項に該当するとされた事由のうち、会社の名誉を毀損するデマを流したこと(別紙「懲戒処分一覧表」記載二の10、五の11の各懲戒事由)については、証拠(原告高橋)及び弁論の全趣旨によれば、これは、原告大瀬が、同業他社の運転手から被告若松運輸が二回不渡りを出したという話を聞き、原告高橋に連絡してきたため、それを原告高橋が原告ら代理人の白井弁護士に報告し、同弁護士が被告ら代理人の秋田弁護士に事実か否か確認したというだけのものと認められ、それが右懲戒事由に該当しないことは明らかである。なお、証拠(乙一七、一八)には、原告大瀬及び原告高橋が、意図的に右のようなデマを流したとの記載があるけれども、確たる根拠に基づくものとはいえず、採用し難い。
(三) 次に、本件懲戒処分において就業規則二四条一五項(職場での無許可のビラ配布禁止)の遵守事項に違反するとされた勤務時間内に従業員のメールボックスにビラを入れる行為(別紙「懲戒処分一覧表」記載一の2の懲戒事由)については、組合の活動の一環として、しかも、勤務時間中のごくわずかな時間を割いてなされたこのような行為が右遵守事項に違反するとはいえないと考えられるし、仮に、右遵守事項に違反するとみる余地があるとしても、右の程度の行為が出勤停止等の措置をもって臨むべき懲戒事由に該当しないことは明らかである。
(四) 本件懲戒処分において就業規則二四条二項(正当な理由なく遅刻、早退又は欠勤しないこと)に違反するとされた懲戒処分のうち、平成一〇年三月一六日、原告藤枝に対してなされた懲戒処分(別紙「懲戒処分一覧表」記載一の7)は、同原告が、勤務時間内に退社したことが就業拒否であるとするものであるところ、証拠(甲二二、原告高橋本人)及び弁論の全趣旨によれば、右就業拒否とされる行為は、定時の一時間前である午後四時に退社したというものであること、また、原告藤枝が退社した理由は、同日は仕事がなく運転手控室で待機していた際、朝から関口公子に文句や嫌みを言われて精神的に苦痛を感じていたところ、午後になって、関口和夫や所長、労務部長に会議室に呼ばれ、組合に関することを延々と言われ続けたため、会社にいるのが辛くなって退社したというものであることが認められ、かかる経緯に照らせば、当日、原告藤枝がそのまま会社にとどまっていたとしても、就業すべき業務が予定されていたとは認め難いし、同原告をして退勤せざるを得ない状況に追い込んだのは被告らの側なのであるから、これをもって、就業拒否とはいえないと考えられるし、仮に、就業拒否に当たる余地があるとしても、それが出勤停止等をもって臨むべき懲戒事由に当たらないことは明らかである。
また、原告富塚及び原告内山に対してなされた二回の懲戒処分(別紙「懲戒処分一覧表」記載四の1、2、六の1、2)は、いずれも就業拒否を理由とするものであるが、証拠(甲一、二四)及び弁論の全趣旨によれば、これは、分会のストライキの通告に基づく就業拒否であることが明らかであり、懲戒事由に当たるものではない。
(五) 本件懲戒処分において就業規則二二条(職務専念義務)に違反するとされた懲戒処分のうち、原告栗原に対し、平成一〇年四月四日になされた懲戒処分(別紙「懲戒処分一覧表」記載三の2)は、就業時間内にカメラで、社内の掲示板を撮影したことを懲戒事由とするものであるが、証拠(甲二三)によれば、右撮影時間は、勤務時間終了後であったと認める余地が大きいし、仮に、それが勤務時間内になされたものとしても、右のようなわずかな時間を割いてなされた行為が出勤停止等をもって臨むべき懲戒事由に当たるとはいえない。
また、原告高橋に対し、平成九年一一月二九日になされた懲戒処分(別紙「懲戒処分一覧表」記載五の1)は、団体交渉の申入書を被告らの会社の投げ金庫の中に入れたり、電話で団体交渉の回答を求めたことが勤務時間内の組合活動を禁ずる就業規則二二条(職務専念義務)に違反するとしてなされたものであるが、勤務時間内のわずかな時間を割いてこの程度の行為をしたからといって、それが職務専念義務に違反したといえるものではないし、仮に、右義務に違反するとみる余地があったとしても、それが出勤停止等をもって臨むべき懲戒事由に当たらないことは明らかである。
(六) このようにみてくると、本件懲戒処分は、いずれも就業規則上の懲戒事由に該当しないものであって、その処分の根拠を欠くといわざるを得ないところ、このように、正当な処分理由がないにもかかわらず、本件懲戒処分がなされたのは、被告らが、原告ら分会員を嫌悪し、これを攻撃する意図に出たものであることは容易に推認しうるし、それが組合員らに対する不利益な取扱いであることは明らかであるから、本件懲戒処分は、労働組合法七条一号の不当労働行為に該当するというべきである。
(七) 前記のように、本件懲戒処分は、就業規則上の懲戒事由に該当しないことが明らかであり、その処分の根拠を欠くものであること、このような懲戒処分がなされたのは、原告ら分会員を攻撃しようとする意図に出たものであり、組合員に対する不利益な取扱いとして不当労働行為を構成するものであることなどからすれば、本件懲戒処分は、およそ正当なものとは認め難いのであるから、無効であるというべきである。
3 争点1(三)及び2(三)(被告らの不当労働行為が原告らに対する不法行為となるか)について
(一) 前記のとおり、被告らが行った団体交渉の拒否、組合脱退の強要、仕事上の差別、賃金上の差別(一時金の不支給)及び本件懲戒処分は、いずれも労働組合法七条一号の不利益取扱い(仕事上・賃金上の差別、本件懲戒処分)、同条二号の団体交渉の拒否及び同条三号の組合に対する支配介入(組合脱退の強要)として、不当労働行為に該当するというべきである。
(二) ところで、労働組合は、労働者の労働条件の維持、向上等の目的のもとに結成された団体であって、使用者と対等の交渉当事者として労働者の経済的地位の向上のために活動することが保障されている(労働組合法一条一項、二条)ばかりでなく、使用者による支配、介入は、労働組合の自主性を損なうものとして固く禁止されている(同法七条三号)。
労働組合法七条の不当労働行為制度は、このような労働組合の団結権侵害にわたる行為の禁圧を目的とするものであるが、そこで労働者個人に対する不利益取扱いも禁止されているのは、それが労働者の団結及び団結活動に重大な影響を与えることに鑑み、個々の労働者の救済を通じ、ひいて労働組合の団結権を擁護しようとする趣旨と解される。
このような労働組合法の趣旨に照らせば、被告らが行った団体交渉の拒否及び原告組合に対する支配介入が、原告組合の団結権を侵害するものであることはもちろん、被告らが行った労働組合の所属組合員たる原告ら分会員に対する不利益処遇も、原告組合の団結権に重大な影響を与えるものとして、原告組合の法律上の利益を侵害するものというべきである。
そして、被告らの前記各行為は、分会が結成されたときから、原告組合及び分会を敵視して行われた一連の行為で、その期間も長期に及び、態様も執拗かつ悪質というべきである上、原告組合及び分会の主張を是認した地労委の救済命令等がなされたにもかかわらず、これを尊重し、遵守することもなかったとの事情を総合すると、社会的相当性の見地からも著しく逸脱し、強度の違法性があるというべきであるから、原告組合に対する不法行為を構成するというべきである。
したがって、被告らのうち被告若松運輸は(原告組合の請求は同被告に対してのみである。)、不法行為に基づき、原告組合が被った損害を賠償する責任がある。
(三) また、前記のとおり、原告ら分会員は、仕事・賃金上の差別や本件懲戒処分などの不当労働行為たる不利益取扱いによって、賃金及び手当の支給の面において多大な経済的不利益を被っているところ、右(二)のような被告らの行為の態様等をも考慮すれば、右不当労働行為は、原告ら分会員との関係においても、強度の違法性を有するものであり、不法行為を構成することは明らかである。
したがって、被告らは、不法行為に基づき、原告ら分会員が被った損害を賠償する責任がある。
4 争点1(四)及び2(四)(原告らの損害)について
(一) 争点1(四)(原告組合の慰謝料額)について
前述のところからすれば、原告組合は、被告らによる前記不法行為により重大な無形の損害を被ったことは容易に推測されるところ、被告若松運輸の行った不法行為の性質や態様、分会員に与えた打撃、継続期間等本件に顕れた一切の事情に鑑みれば、原告組合に対する慰謝料は三〇〇万円が相当である。
(二) 争点2(四)(原告ら分会員が分会結成後の賃金減少分に相当する損害を被ったといえるか)について
(1) 原告らは、原告ら分会員が被告らの不当労働行為により、分会結成前の三か月間の平均賃金額と、分会結成後の平均賃金額の差額相当額の損害を被ったと主張するところ、証拠(甲三の1、2、二七ないし三二、原告高橋本人)及び弁論の全趣旨によれば、右のようにして算定された賃金の差額は、別紙「損害額一覧表」記載のとおりになることが認められる。
前述のところからすれば、原告ら分会員が不当労働行為たる仕事上の差別や、無効とされた本件懲戒処分による出勤停止のため、相当程度、賃金が減少するという損害を被っていると認められるところ、それらの差別や出勤停止が分会結成前になかったことは明らかであるから、右のような損害算定方法は基本的にこれを是認することができる。
しかしながら、原告ら分会員に支給される給与の額は、景気の動向や被告らの事業内容の推移に多分の影響を受けると考えられるところ、ここ数年の長引く不況が被告らの運送事業にある程度の影響を及ぼしている可能性が否定できないことを考慮すると、被告らの前記不法行為と相当因果関係のある損害としては、前記一覧表記載の損害額の七割をもって損害と認めるのが相当である。
なお、被告らは、損害額を算定するとしても、各懲戒処分ごとに、その処分前の賃金に基づいて平均賃金を算出すべきであると主張するが、本件懲戒処分がいずれも無効とされることは前述のとおりであるから、右主張は採用し難い。
(2) そうすると、原告ら分会員の損害は、原告藤枝は一八八万二八八六円(円未満は切捨て、以下同じ。)、原告大瀬は一九九万一九四二円、原告栗原は四八万七九二〇円、原告富塚は二六万四五九九円、原告高橋は二二四万八二三九円、原告内山は六九万五四三三円となる。
第四結論
よって、原告らの請求のうち、不法行為に基づく損害賠償請求については、原告藤枝の請求は一八八万二八八六円、原告大瀬の請求は一九九万一九四二円、原告栗原の請求は四八万七九二〇円、原告富塚の請求は二六万四五九九円、原告高橋の請求は二二四万八二三九円、原告内山の請求は六九万五四三三円及びこれらに対する被告らに請求の趣旨の減縮申立書が送達された日の翌日である平成一一年九月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める限度で、原告組合の請求は、三〇〇万円及びこれに対する被告若松運輸に訴状が送達された日の翌日である平成一〇年九月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、また、原告ら分会員の本件懲戒処分無効確認請求はいずれも理由があるからこれを認容し、原告らのその余の損害賠償請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 及川憲夫 裁判官 瀬木比呂志 裁判官 澁谷勝海)
別紙<省略>